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大阪地方裁判所 昭和50年(わ)1656号 判決 1979年8月27日

裁判所書記官

上田隆敏

本店

大阪市東淀川区小松北通一丁目七番地

商号

東洋製鉄株式会社

右代表者

代表取締役 音頭直次

本籍

富山県砺波市鷹栖五〇八番地

住居

大阪府吹田市千里山西五丁目三四番六号

会社役員

音頭直次

大正一二年三月二五日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官上野富司出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東洋製鉄株式会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人音頭直次を懲役八月に各処する。

被告人音頭直次に対し、この裁判の確定した日から二年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東洋製鉄株式会社は、大阪市東淀川区小松北通一丁目七番地に本店をおき、銑鉄及び一般鋳物製造業を営むもの、被告人音頭直次は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人音頭直次は同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  被告人東洋製鉄株式会社の昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日までの事業年度において、その所得金額が三三、四三九、九一五円で、これに対する法人税額が一一、五一一、二〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上の一部を翌期に繰延べするほか、たな卸の一部を除外するなどの行為により、右所得金額中、一六、〇六〇、三〇六円を秘匿したうえ、同四七年六月二七日大阪市淀川区木川東二丁目三番一号所在東淀川税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一七、三七九、六〇九円で、これに対する法人税額が五、六一九、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税五、八九二、二〇〇円を免れ、

第二  被告人東洋製鉄株式会社の同四八年五月一日から同四九年四月三〇日までの事業年度において、その所得金額が二二一、七六〇、二八二円で、これに対する法人税額が八〇、二八八、五〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中一五〇、〇五七、六六四円を秘匿したうえ、同四九年六月二八日前記東淀川税務署において同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七一、七〇二、六一八円で、これに対する法人税額が二五、一四六、二〇〇円である旨の虚為の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税五五、一四二、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき、

一、第二二回公判調書中の被告人音頭直次の供述部分

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書四通及び検察官に対する供述調書

一、第三回、第四回公判調書中の証人細野和博の各供述部分

一、細野和博の収税官吏に対する昭和四九年八月三〇日付、同年一〇月一六日付各質問てん末書及び検察官に対する供述調書抄本

一、第六回公判調書中の証人藤井正夫の供述部分

一、藤井正夫の収税官吏に対する昭和四九年一〇月一四日付質問てん末書

一、第八回公判調書中の証人酒井健吉の供述部分

一、第一二回、第一三回公判調書中の証人米田福雄の各供述部分

一、米田福雄作成の査察官調査書五通

一、第一五回ないし第一八回公判調書中の証人湯浅光三の各供述部分

一、湯浅光三の収税官吏に対する質問てん末書三通(内抄本一通)

一、山本武男の収税官吏に対する昭和四九年九月一八日付質問てん末書

一、門田辰夫の収税官吏に対する質問てん末書

一、大蔵事務官山崎正五郎作成の昭和五〇年一月三一日付証明書(青色申告書提出の承認申請書分)

一、同篠原秀峰作成の昭和五一年七月七日付証明書

一、押収してある物品受領証三二綴(昭和五〇年押第八五八号の一二)、営業実績資料一綴(同号の一四)、月次資料二綴(同号の一五)、在庫調査用紙(本社工場)一冊(同号の二一)、製品在庫一冊(同号の二〇)

判示冒頭の事実につき

一、登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実につき

一、第一九回ないし第二一回公判調書中の証人細野和博の各供述部分

一、細野和博の収税官吏に対する昭和四九年一〇月一日付質問てん末書抄本及び同人作成の同日付、同月三一日付各確認書

一、山本武男の収税官吏に対する同月二五日付質問てん末書及び同人作成の同年九月一八日付(昭和四七年四月期の売上繰延神戸製鋼所分)、同年一〇月二五日付(二通)各確認書

一、梶谷美代子の収税官吏に対する質問てん末書

一、押収してある月次資料三綴(昭和五〇年押第八五八号の一)、手形受払帳一冊(同号の二)、売掛帳二綴(同号の三、四)、検収綴一綴(同号の八)、小松製作所大阪工場納品受領書一綴(同号の一一)、決算書一綴(同号の一六)、会議提出及製作資料一綴(同号の一七)、製品在庫帳一冊(同号の一八)、一四期売上元帳一綴(同号の二五)、同期仕入元帳一綴(同号の二六)、同期月次資料一二綴(同号の二七)、一三期売上元帳綴(同号の二八)、同期仕入帳一綴(同号の二九)、同期月次資料一一綴(同号の三〇)、材料入荷控一冊(同号の三一)

判示第二の事実につき

一、第九回、第一〇回公判調書中の証人梶谷昌樹の各供述部分

一、第一一回公判調書中の証人中島郁美の供述部分

一、細野和博の収税官吏に対する昭和四九年九月一〇日付、同年一一月一五日付、同月二五日付各質問てん末書及び同人作成の同年九月一〇日付確認書

一、山本武男の収税官吏に対する同年八月三〇日付、同年九月五日付、同月九日付各質問てん末書及び同人作成の同月五日付、同月九日付、同月一八日付各確認書

一、藤井正夫の収税官吏に対する同年一〇月二八日付質問てん末書

一、大蔵事務官山崎正五郎作成の昭和五〇年一月三一日付証明書二通(法人税申告分)

一、中島郁美、平田利幸作成の各確認書

一、押収してある売掛帳四綴(昭和五〇年押第八五八号の五)、買掛帳四綴(同号の六)、メモ一綴(同号の七)、売上帳二綴(同号の九、一〇)、経費明細帳一綴(同号の一三)、在庫(製品)帳一冊(同号の一九)、在庫調査用紙一綴(同号の二二)、昭和四九年四月末鋳造部棚卸明細一綴(同号の二三)、在庫関係資料ファイル一綴(同号の二四)

(争点に対する判断)

一、期首簿外原材料について

(一)  弁護人は、被告人東洋製鉄株式会社(以下被告会社という。)の昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日までの事業年度における期首棚卸高は、検察官の主張する五七、八六七、七八五円のほかに、簿外原材料在庫が最低限一三、六六一、九九四円(重量五七四トン一五四キログラム、トン当り価格二三、七九五円)存在するので、これを右期首棚卸高に加算すべきであると主張する。

(二)  よって検討するに、第二二回公判調書中の被告人音頭直次の供述部分、第三回、第四回、第一九回ないし第二一回公判調書中の証人細野和博の各供述部分、第一五回ないし第一八回公判調書中の証人湯浅光三の各供述部分、湯浅光三の収税官吏に対する質問てん末書三通(内一通は抄本)、押収してある一四期売上元帳一綴(昭和五〇年押第八五八号の二五)、同期仕入元帳一綴(同号の二六)、同期月次資料一二綴(同号の二七)、一三期売上元帳一綴(同号の二八)、同期仕入元帳一綴(同号の二九)、同期月次資料一一綴(同号の三〇)、材料入荷控一冊(同号の三一)によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 被告会社の原材料棚卸は大量の各種原材料が同会社の工場の空地等に野積みの状態に置かれていて、実際にこれを看貫して各品目ごとの正確な数量を出すことが事実上不可能であったところから、現実には、右棚卸を担当する同会社常務取締役湯浅光三が、主として、同人の経験と勘に基づくいわゆる目測によって、原材料の各品目別の大体の数量を各月ごとに算出するという方法によっていたものであり、その調査数量にはかなり不正確なものもあったこと、

(2) ところで、昭和四四年に被告会社の京都工場開設に伴ない、同年一二月ころから翌四五年七月ころまでにかけて、同会社大阪工場にあった原材料のすべてが右京都工場に運搬された際、右運搬時の計量によってそれまでの前記湯浅の目測による原材料在庫量をかなり上廻る簿外の原材料在庫があることが判明したのであるが、昭和四五年四月末現在における右簿外の原材料在庫量は、昭和四四年一二月末以降昭和四五年四月末までの右湯浅の目測による原材料在庫量の推移やその期間内の原材料の仕入及び消費数量から算定すると、計算上少なくとも五七四トン一五四キログラムが存在したこと、

(3) 前記湯浅は、右簿外の原材料在庫の存在を発見してのち、一旦はこれに相当する数量を同人作成の各月ごとの原材料の棚卸数量を記載する公表の記録に組み入れて計上したが、昭和四五年四月末現在の原材料棚卸数量を算出する際には、再びこれを簿外の在庫に戻していること、

(4) そして、右簿外の原材料在庫は、昭和四五年五月一日から同四六年四月三〇日までの翌事業年度中における原材料の仕入や消費数量、前記湯浅の目測による各月ごとの原材料在庫高との比較あるいは同事業年度における被告会社製品の歩留り率などからすると、同事業年度中もそれが製品の生産等に消費されることなくそのまま存続し、同事業年度末したがって、昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日までの本件事業年度の期首においても、右簿外の原材料在庫は、前同様少なくとも五七四トン一五四キログラムが存在したこと(なお、右簿外原材料在庫は、被告会社においてその後右事業年度中にその分の仕入れを手控えるなどして製品の生産等のため全部消費されるに至ったこと)、

(5) 右本件事業年度の期首における五七四トン一五四キログラムの簿外原材料在庫の各品目別の内訳は明確でないので、昭和四五年四月末現在被告会社に存在する各種原材料の平均単価トン当り二三、七九五円に、右数量を乗ずると一三、六六一、九九四円の金額が算出されること、

(三)  以上の事実によれば、昭和四六年五月一日から昭和四七年四月三〇日までの本件事業年度における検察官主張の期首棚卸高五七、八六七、七八五円に、前記簿外原材料在庫分一三、六六一、九九四円を加算すべきであり、したがって、公訴事実記載の同事業年度における被告会社の所得金額四七、一〇一、九〇九円及び犯則所得金額二九、七二二、三〇〇円よりいずれも右一三、六六一、九九四円を減額すべく、且つ公訴事実記載のその法人税額一六、五二八、九〇〇円及び逋脱税額一〇、九〇九、九〇〇円より、右減額後の所得金額を基礎として算出した法人税額一一、五一一、二〇〇円と右公訴事実記載の法人税額との差額五、〇一七、七〇〇円をそれぞれ差引くべきであり、判示第一のとおり認定するのが相当である。

二、青色申告取消益の犯則所得算入について

弁護人は、青色申告の承認の取消による青色特典の否認分については、犯則所得に含まれるべきものではない旨るる主張するが、当裁判所の見解も、昭和四九年九月二〇日最高裁第二小法廷判決(集二八―六―二九一、なお、昭和四九年一〇月二二日最高裁第二小法廷、昭和五〇年二月二〇日同第一小法廷各判決も同見解)と同様であり、青色申告の承認を受けた法人の代表者がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をし、その後その事業年度にさかのぼってその承認を取消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税法七四条一項二号に規定する法人税額(すなわち、青色特典の否認分も犯則所得に含めて計算した法人税額)から申告にかかる法人税額を差し引いた額であると解するので、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

法人税法一五九条一、二項、一六四条一項(被告人音頭直次の罪につき懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項、二五条一項、刑事訴訟法一八一条一項本文

(裁判官 森下康弘)

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